マリン政権誕生で過熱するフィンランドのフェイクニュース合戦
「大使館が否定してるのにフェイク情報を拡散する先生たち1&2」「ウソが多すぎるフィンランド情報」など過去の記事で、フィンランド情報にはたいへんウソが多いことを再三書いてきましたが、昨年マリン政権が誕生して以来、メディアによるフェイク報道合戦が過熱しているようなので、以下に紹介します。
マリン首相の霊言インタビュー
まず、今年1月に、マリン首相が週休3日(週4日労働)を提唱したというフェイク・ニュースが流れました。覚えている人もいるでしょうか?
Finland PM calls for four-day working week and six-hour days https://t.co/KF0fFeu7kp pic.twitter.com/13qGZ9CcMT
— ITV News (@itvnews) January 6, 2020
しかし、これは彼女が首相になる前の過去の発言であり、フィンランド大使館もたいへん困惑しています。
フィンランドが週休3日、1日6時間労働を検討しているという話がメディアで報道されているけれど、それは新政権と首相が所属している党の目標にもないし、計画もないんだ。確かにマリン首相は、首相になる前の去年8月に党の会と地元紙で労働時間の短縮のビジョンを持っていると語ったのは事実だけど
— 駐日フィンランド大使館 (@FinEmbTokyo) January 7, 2020
また、3月には本人に会ってもいないのにマリン首相の独占インタビューをでっち上げて掲載する強者が現れました。
Dainik Bhaskar publishes fake interview of Finland PM Sanna Marin on its portal, deletes after confronted by Finnish governmenthttps://t.co/NEgz9jlmTK
— OpIndia.com (@OpIndia_com) March 14, 2020
○○総裁もビックリ。この霊言インタビューは、世界的なフェイク報道合戦の熱気を感じさせるエピソードですね。
リベラルの広告塔としてのフィンランド
2月以降、どこのメディアもコロナで大騒ぎしていますが、フィンランドのコロナ対策の報道ももちろんありました。以下のガーディアンの報道は、コロナ情報をPRするため、従来のマスコミだけでなくSNSのインフルエンサーも使う、というフィンランドの対策を絶賛しています。
Finland enlists social influencers in fight against Covid-19 https://t.co/u0iH8fdAoP
— The Guardian (@guardian) April 1, 2020
この報道自体はフェイクではない(と思う)のですが、フィンランドの現地紙の報道によると、国民はコロナ情報に関してSNSではなく従来のマスコミの方を遥かに信頼している、とのことです。つまり、この対策はちっともうまくいってないんですね。
Finns trust traditional outlets more than social media for coronavirus news https://t.co/QUWNE7r8LU
— Yle News (@ylenews) June 1, 2020
で、このような顛末をガーディアンが報道したかというと、してません。
フィンランドに関する報道では、結果が出てないのにいきなり大絶賛し、失敗したと判ると報道しなくなるので、何でも成功しているかのような誤解がまかり通っていることが多いような気がします。
もっと酷い例を挙げましょう。
同じく4月初め、ニューヨークタイムズがフィンランドの緊急物資備蓄を大絶賛しました。
As some nations scramble to find protective gear to fight the coronavirus pandemic, Finland has an enviable stockpile of personal protective equipment like surgical masks https://t.co/K8QrJD1Zrb
— The New York Times (@nytimes) April 5, 2020
世界各国がマスクや防護服を求めて奔走する中、フィンランドは備蓄があるから大丈夫、というお話しです。
しかし、実際は、これらの備蓄品は古くて使えないことがすぐに判明します。そこで慌てて中国から調達したらそれも粗悪品、しかも怪しい業者を使ったため逮捕者がでたり、担当者も辞任・・・というひどいスキャンダルに発展しました。
Stockpile boss resigns after failed mask procurements https://t.co/nWGhZQUguD
— Yle News (@ylenews) April 10, 2020
で、こうした顛末をニューヨークタイムズが報道したかというと、もちろんしていません。従ってフィンランドの緊急備蓄がサクセス・ストーリーだと思ってる人も多いでしょう。案の定、この記事を引用するメディアも出てきて、フィンランドの成功神話が強化されました。
実際、フィンランドのコロナ対策に関する記事を書くなら、緊急備蓄という味気ないものを取り上げるより、その後のドタバタスキャンダルを書く方がよっぽど面白く興味深い記事になるはずです。でも、海外マスコミはそういう記事は載せません。
なぜか?リベラルの広告塔としてマスコミが大切に育ててきたフィンランドのイメージが傷つくからです。
日本のマスコミも海外のマスコミも、フィンランドのイメージダウンは許さない、という点では意見が一致しているようです。リベラルやポリコレなど一定の価値観を読者や視聴者に押し付けるときの広告塔をどこも必要としている、ということでしょう。
フィンランド副首相の汚職&辞任ニュースに世界が沈黙
フィンランド副首相の辞任に関する報道(というか沈黙)は、世界のマスコミがこの広告塔をいかに大切にしているかを端的に示していると思います。
昨年12月、フィンランドでマリン政権が発足したとき、世界中のマスコミが大絶賛しました。 "首相も主要閣僚も若い女性ばかりでステキ!" というような報道は、ネットで検索すると大量に出てきますね。
34歳女性のマリーン前運輸・通信相が現職として世界最年少の首相に就いた北欧フィンランド。同国では連立5与党のうち3党の党首が30代女性で、マリーン氏を支える閣僚として政権に参画しています。若手女性がなぜ政界の指導者となれるのでしょうか。 https://t.co/89QYlT68QT
— 毎日新聞 (@mainichi) December 17, 2019
ところが、先月(6月)初め、公金の使い込みがバレてKulmuni副首相兼財務相(上の画像の左から2番目)が辞任しました。政権のナンバー2の辞任ですから決して小さなニュースではありません。
Kulmuni resigns as Minister of Finance over €50k coaching billhttps://t.co/lUQGETWubj
— Yle News (@ylenews) June 5, 2020
しかしながら、この副首相の汚職&辞任について、海外ではBBCがやロイターがかろうじて報じたぐらいで、他のメディアはほぼ完全に沈黙。ガーディアンやニューヨークタイムズも報道していません。上記のような怪しいコロナ対策を報じておきながら、副首相の辞任を無視するって、おかしいでしょ?でも、これが海外メディアなのです。
日本のメディアはもちろん沈黙。特筆すべきは毎日新聞で、昨年この Kulmuni(クルムニ))副首相にインタビューしておきながら、今回の辞任についてはダンマリです。
"事実の報道などどうでもいい、フィンランドのイメージダウンを絶対阻止するぞ"、という強い意気込みが伝わってきますね。
ところで、後任の副首相兼財務相は男性のヴァンハネン氏になりました、ヴァンハネン氏は首相経験者であり、2m近い大男なので主要閣僚の集合写真は以下のコラージュのようになることが予想されています。
しかし、ヴァンハネン氏が就任してから一カ月以上たつのに新しい閣僚の集合写真はなぜかまだ発表されていません(7月半ば現在)。政府が公表しないのかマスコミが報道しないのかよくわかりませんが、上記のようなコラージュ写真だと、他の女性閣僚がヴァンハネン副首相の部下みたいに見えてしまうので、"若い女性がリードするフィンランド"、というイメージをさぞかし傷つけることでしょう。
イメージダウンを避けたいなら公表しない方が無難かもしれませんね。
こういうわけなので、未だにフィンランドの主要閣僚は女性ばかりだと思っている人は多いでしょう。北欧の政治家が汚職で辞任するなんて夢にも思わない、という人も沢山いるはずです。私達はそうしたイメージを自分自身の考えだと思い込んでいますが、往々にしてメディアの匙加減の結果だったりします。
マスコミのそういう習性を知っておけば、フェイクニュースに踊らされることも少なくなると思うのですが・・・
以上