先日、「なぜ低学力のフィンランドが1位になったのか?」 というブログ記事の中で、"教育ブームをウソでもいいから信じたいという不気味な人たちが世界に大勢いる" と書きましたが、今回はアメリカで起きた日本教育ブームを取り上げて、外国の教育に関してウソを言いふらす人、また、そのようなウソを必要としている人が世界中にとても多い、ということをご覧いただきたいと思います。
New York Times が「日本教育に学べ」
2014年7月に New York Timesが "Why Do Americans Stink at Math? (なぜアメリカ人は数学が苦手なのか?)" という記事を掲載しました。書いたのは、Elizabeth Green (@elizwgreen)という、教育系サイトを運営している人で、彼女が書いた "Building A Better Teacher" という本の紹介と宣伝を兼ねた記事になっています。
Why do Americans stink at math? http://t.co/SxD0RkPlGU http://t.co/ONehExIzSS
— The New York Times (@nytimes) July 26, 2014
記事のタイトルを見ると、アメリカの数学教育のことが書いてあると思ってしまいますが、著者が日本の小学校を訪問し、そこで取材したことがふんだんに取り上げられています。
記事を私なりに要約すると「"生徒が話し合って解法を探求する"、"教師は一方的に教えない"、"答えを得るのでなく考え方を学ぶ"、"練習問題やドリルはダメ" etc. ・・・といった教育法をアメリカの教育者が提唱して実践したが大失敗した。しかし、日本の教育者がその教育法に興味を示し導入したら成功している。それは、日本人がきちんと根気よくやったからだ、今こそ日本の教育に学べ」というものです。
奇特なことに、この記事を和訳していた人がいたので紹介しておきます。
(読みにくいと感じる人は多いと思いますが、それは翻訳のせいではなく、英語の原文がとても散漫だからです。原文に対するそういう批判もあります。)
ボロクソに批判されるNY Times の記事
海外で日本の教育を賞賛する声は、1980年代ぐらいからあって、決して珍しいものではありません。今でも日本は国際学力テストの上位の常連ですから、「日本の教育に学べ」というスローガン自体はアメリカ人も違和感なく受け入れると思います。
しかし、この記事の内容は普通に間違っています。なぜなら、著者は、日本でゆとり教育が批判されていること、生徒の大半が塾に行っていること、「百ます計算」など真逆の指導法が評価されていること・・・等々をまったく無視しているからですね。
というわけで、この記事はすぐに批判されます。
もっとも素早く反応したのはブルッキング研究所で、一つ一つ丁寧に検証してボロクソに批判しています。
また、フーバー研究所の Education Next というサイトも批判、
そして、日本からもツッコミが入ります。
Japan Objection: Big Doubts on the NY Times Article: "Why Do Americans Stink at Math?" http://t.co/M7hXfyIbGc @leoniehaimson @pasi_sahlberg
— Yong Zhao (@YongZhaoEd) August 28, 2014
批判にも関わらずバカ受け
結局、この記事は間違いであり、アメリカでダメだった教育法は日本でもダメだった、という身も蓋もない結論が真実のようです。
それにも関わらず、Greenさんのこの記事と著書は大人気で、しばらく彼女は日本教育の専門家として講演会などで活躍します。そして、翌年にはアメリカで最も大きな教育イベントの一つである SXSWEdu の基調講演を務めるまでに登り詰めます。
Elizabeth Green @elizwgreen y @DavidEpstein debaten en SXSWedu si el educador nace o se hace... pic.twitter.com/SO4RoBZ0Uh
— EducaAustin (@EducaAustin) March 10, 2015
でも、現在、Greenさんは日本教育の専門家として活動することは止めてしまっているようですね。多分、上記のような批判に耐えられなかったのでしょう。つい先日(2019年12月現在)彼女のツイッター・アカウントを検索したら、2016年9月を最後に Japan とか Japanese という単語を含む発言はしていませんでした。
結局、この ”間違いだらけの日本教育ブーム" は短期間で終わりました。よかったですね。日本に逆輸入でもされたりしたら "ゆとり教育が海外で評価された" と有象無象が騒ぎ出していたに違いありません。危ないところでした。
しかし、短命で終わったとはいえ、教育界ではなぜこのような間違った記事や本がウケるんでしょうか?
確かに「アメリカで開発された教育法が他の国で成功している」というストーリーはその教育法の信望者のみならず、一般のアメリカ人にもインパクトがあるでしょう。それが原因でしょうか?
フィンランドと日本 ー 二つの眉唾教育ブームはアメリカ発か?
フィンランドと日本の眉唾教育ブームには、共通点がたくさんあると思いますが、ここで指摘しておきたいのは、両者ともアメリカの教育を採り入れた、と言っていることです。以下の映像をご覧ください(8:46ぐらいから)。
ウソが多いのでこのブログでもよく取り上げるマイケル・ムーア監督の映画の一部ですが、ここで「フィンランド教育の成功はアメリカの発想によるもの」と語っている人がいますね。この人は、Pasi Sahlberg というフィンランドの教育者で、国際教育学者?の畠山さんによると、以下のような人です。
フィンランドの教育は色々言われるけど、教員免許も博士号も持って局長として教育政策に当たり、その後世銀やOECDで働いて、ハーバードの客員教授を務める。意見に賛否両論はあるけど、そんな人材が教育政策やってるんだからそりゃ強いでしょというのが第一の感想。https://t.co/1o84TWrNrf
— 畠山勝太/サルタック (@ShotaHatakeyama) June 30, 2019
畠山さんは、Pasi Sahlberg氏を絶賛しているようですが、この人物はフィンランド教育の宣伝マンみたいな人で、都合の悪い事には一切触れないので話半分に聞いておいた方がよい、と私は思っています。
まぁ、それはともかく、フィンランド教育の第一人者が、フィンランド教育の成功はアメリカの発想だと語っているって、なんか意味深ですね。っていうか、ここで紹介したNY Times の記事と同じシナリオのような・・・。この人、OECDにもいたそうですが、もしかしてPISAテストにも関わっていたのかな?
こうした事実を前にすると、この二つの眉唾教育ブームは、自分達の信じる教育法が失敗の烙印を押されたことに我慢できないアメリカの教育者とその信望者たちが、国際学会などを通じてその教育法を他国や国際機関(OECD)に売り込んだ結果なんじゃないか?、という疑念が出てきます。
ウソだとすぐばれるような "偽サクセス・ストーリー" が人気を博するのも、そういうことなら理解できます。
なにか陰謀じみて聞こえるかもしれませんが、そもそも教育学というところは世界的に欧米の学者が支配的で、今さら陰謀をめぐらす必要もないほどひどく偏向しており、日本やフィンランドの教育学者は彼らの金魚のフンみたいなことをやって喜んでいる・・・ という話しはまた別の機会にしたいと思います。
以上